現状と課題
現在、日本の公的年金制度は「マクロ経済スライド」という仕組みを導入しており、経済状況に応じて年金給付水準を調整している。少子高齢化に伴い、保険料を納める現役世代が減少しているため、給付水準が抑えられる傾向にある。過去30年間と同様の経済状況が続く場合、厚生年金は2026年度でマクロ経済スライドが終了することが予想されている。
一方で、基礎年金は財政が脆弱であり、57年度まで年金額が減少し続ける見込みだ。特に、自営業者など基礎年金しか受け取れない層は、老後生活が困窮する可能性が高い。このような背景から、基礎年金の給付水準を改善する必要性が叫ばれている。
給付水準の改善とその影響
厚生年金の積立金や国費を充てることで、基礎年金の給付水準は現行よりも3割改善される見込みである。また、この施策により基礎年金の給付抑制期間を21年短縮できる可能性もある。基礎年金の財源の半分は国費から賄われており、給付水準改善に伴い国庫負担が最大で年間2兆6000億円増加する見込みだ。
このような施策は、一見すると多くの人々にとって喜ばしいニュースである。しかし、その一方で厚生年金と基礎年金との間に新たな不公平感が生じる懸念も存在する。
不公平感の懸念
厚生年金は会社などに勤務する人々が加入する保険制度であり、その保険料は給与天引きで支払われている。この原資を自営業者などすべての国民が加入する国民年金に回すことになると、将来的には給与所得者の受け取れる年金額が本来受け取れるべき額よりも減額される可能性がある。
このような状況では、厚生年金保険料の負担と受益が一致しなくなるため、給与所得者にとっては不公平感が強まることになる。特に、自営業者や非正規雇用者との間で給付に差が出ることは社会的な問題となり得る。
まとめ
基礎年金の給付水準を底上げするためには、厚生年金の積立金や国費を活用することが不可欠である。しかし、この施策には新たな不公平感を生むリスクも伴うため、政府内や与野党間で慎重な協議が求められる。将来的な増税や財源確保についても議論が必要であり、今後の展開には注目が集まる。
確かに、基礎年金を受け取る人々にとって給付額が増えることは喜ばしいことである。しかし、それによって生じる不公平感や制度全体への影響についても十分な検討が必要だろう。今後、日本社会全体としてどのようにこの問題に取り組んでいくか、その行方は非常に重要である。