2024年度上半期、人手不足による倒産件数が163件に達し、過去最多を更新した。この数字は、前年度の313件を大幅に上回るペースであり、日本の労働市場が直面している危機的状況を如実に示している。
特に建設業と物流業では、人手不足倒産が顕著である。建設業では55件、物流業では19件と、両業種で全体の45.4%を占めている。さらに、飲食店でも9件と急増している。これらの数字は、特定の業種に限らず、日本経済全体が人材確保の困難に直面していることを示している。
企業の身勝手な人材戦略が招いた危機
しかし、この「人手不足」という言葉の裏には、企業の身勝手な人材戦略が隠されている。実際には、働きたい人や無職の人、ニートの人々が多数存在するにもかかわらず、企業は自らに都合の良い人材だけを求め、適切な賃金を支払おうとしていない。
企業は「人手不足」を嘆きながら、実際には以下のような問題のある採用姿勢を取っている:
- 年齢制限:多くの企業が若年層のみを求める傾向にあり、中高年の豊富な経験を持つ人材を排除している。
- 過度なスキル要求:エントリーレベルの職位でさえ、非現実的なスキルや経験を要求している。
- 低賃金:適切な賃金を支払わず、「人手不足」を理由に既存の従業員に過度な負担を強いている。
- 柔軟性の欠如:多様な働き方を認めず、従来の固定的な勤務形態にこだわっている。
これらの姿勢は、潜在的な労働力を活用できていないことを示している。つまり、「人手不足」は企業の自業自得なのである。
ここらへんの話は「企業よ、覚悟せよ!就職氷河期世代への償いは社会の義務だ」でも書いています
「2024年問題」と企業の対応の遅れ
2024年4月から施行された時間外労働の上限規制、いわゆる「2024年問題」は、特に建設業と物流業に大きな影響を与えている。これらの業種では、約7割の企業が人手不足を感じており、全体平均の51.5%を大きく上回っている。
しかし、この問題は突然現れたわけではない。企業には十分な準備期間があったにもかかわらず、多くの企業が適切な対策を講じてこなかった。その結果、規制適用後に急激な人手不足に直面し、倒産に追い込まれるケースが続出している。
これは、企業が長年にわたって労働環境の改善や人材育成に真剣に取り組んでこなかったことの結果である。「人手不足」を嘆く前に、企業は自らの経営姿勢を厳しく見直す必要がある。
賃上げと価格転嫁:企業の責任回避
一部の企業では、人材確保のために賃上げを検討している。しかし、その「賃上げ原資」を確保するために価格転嫁を進めようとしている。これは、企業が自らの利益を守りつつ、コストを消費者に転嫁しようとする姿勢の表れである。
確かに、物流業などでは価格転嫁率が徐々に上昇している。しかし、これは本質的な解決策とは言えない。企業は、まず自らの利益構造を見直し、適切な賃金を支払うための原資を内部で確保すべきである。
価格転嫁に頼る前に、企業は以下のような取り組みを行うべきである:
- 経営効率の改善:無駄な支出を削減し、業務プロセスを最適化する。
- 利益配分の見直し:株主還元よりも従業員への還元を優先する。
- 投資戦略の再考:短期的な利益よりも、長期的な人材育成に投資する。
- 多様な人材の活用:年齢や経歴にとらわれず、幅広い人材を採用する。
真の解決策:企業の意識改革と社会的責任の遂行
人手不足問題の真の解決には、企業の根本的な意識改革が不可欠である。企業は、「人手不足」を嘆く前に、以下の点を真剣に考慮すべきである:
- 公正な採用:年齢や経歴にとらわれない、公平な採用プロセスを確立する。
- 適切な賃金:生活できる水準の賃金を保証し、従業員の生活の質を向上させる。
- 労働環境の改善:長時間労働を是正し、ワークライフバランスを重視する。
- 人材育成:従業員のスキルアップを支援し、キャリア形成を促進する。
- 多様性の尊重:様々なバックグラウンドを持つ人材を受け入れ、活かす。
これらの取り組みは、短期的には企業の利益を圧迫するかもしれない。しかし、長期的には優秀な人材の確保と定着につながり、企業の持続的な成長を支える基盤となる。
結論:人手不足は企業の自業自得
「人手不足」という言葉の裏には、企業の身勝手な要求と社会的責任の放棄が隠されている。働きたい人や能力のある人は確実に存在する。しかし、企業が適切な賃金と労働条件を提供せず、自らに都合の良い人材だけを求めているために、「人手不足」という状況が生まれているのである。
企業は、「人手不足」を嘆く前に、自らの経営姿勢を厳しく見直すべきである。適切な賃金を支払い、公正な採用を行い、労働環境を改善することで、真の意味での「人材確保」が可能となる。
人手不足倒産の増加は、企業の自業自得であり、社会的責任を果たしていない結果である。今こそ、企業は自らの在り方を根本から見直し、すべての働く人々にとって魅力的な職場を作り出す努力をすべきである。それこそが、人手不足問題を解決し、日本経済の持続的な成長を実現する唯一の道なのである。
スキルがーとか経験がーとかで不採用にする時代はもう終わりってこと